リビアは、国土の90%を砂漠地帯が占める国である。それはむろん、北アフリカ全土に広がる世界最大のサハラ砂漠の一部だが、そのうちリビア・エジプト・スーダンにかけての東部地域を、「リビア砂漠」ともいう。
しかし、砂漠の国だから何もないかといえば、けっしてそんなことはない。サハラ砂漠は、紀元前8000年頃から紀元前2000年頃までは、豊穣なサバンナ地帯であった。そのころの繁栄の名残が、岩面画となって数多く残っているのだ。また、砂漠の中のオアシス都市にも、美しい歴史的建造物が多い。ガタメスという都市の街並は、世界遺産としても指定されているほどである。今回は13日間に及ぶ長旅だったが、その間、私は退屈などしなかった。
砂漠地帯の旅は、気候、水分補給などさまざまな困難がつきまとう。地表温度が50度を超すような日には、生命の危険すら感じる。そのため、ランドクルーザー4台に水と食糧を山ほど積み、さらに山羊を一頭乗せたトラック1台という、計5台の車による大編成の旅であった。
土地の人々は、サハラ砂漠のことを「水のない海」と呼ぶ。なるほど、どこまでもつづく砂丘が風に揺られて少しずつ姿を変えるさまは、海の波によく似ている。夜、月光に照らされた「水のない海」を眺めていると、時が止まったような不思議な感覚にとらわれ、陶然となった。
砂漠の風景は、想像していたほど単調ではなかった。砂漠の中にも砂丘や岩山などさまざまな景色があるし、砂漠の表情も一様ではない。たとえば、同じ砂漠でも昼と夜ではまるで印象がちがい、見飽きるということがないのだ。また、砂漠の中には湖も点在するが、そのそれぞれが異なった美しさを見せてくれた。
砂漠そのものも魅力的だったが、アカクス山中にある先史時代の岩面画を四輪駆動車で探して回ったことが、最も印象深い。タドラート・アカクス山脈の荒涼とした風景のなか、突如として色鮮やかな岩面画が姿をあらわすのだ。その多くは、古代の人々がゾウ、サイ、キリンなどを追う狩猟の様子が、いきいきと描かれたものである。
壁画を眺めながら、サハラ砂漠が肥沃なサバンナであったはるかな時代――8000年以上前といわれる――を想った。物言わぬ砂漠は、その悠久の時の流れをじっと見つめてきたのだった・・・。
|